MOTHERHOUSE

マザーハウスはなぜ会社をコミュニティと呼び、
スタッフやお客さまを仲間と呼ぶのか?

マザーハウス副社長 山崎大祐

今年、創業から10年を迎えたマザーハウス。生産・販売合わせて6つの国で展開、300名のスタッフが働くようになりました。しかし、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念をカタチにしていく挑戦はまだ始まったばかり。新しい生産国の立ち上げなど、新しいアクションもたくさん控えています。今後どんな会社を作っていくのか、創業以来、マザーハウスを作ってきた副社長の山崎大祐へのインタビュー形式でお伝えします。

会社は仲間をつくるコミュニティ

マザーハウスは創業から10年経ちましたが、10年を一言で振り返ると何でしょうか?

うーん、一言で振り返るのはとても難しいですね(笑)。いろいろありました・・・皆で試行錯誤してきた10年でしたね。でもそんな試行錯誤の中で、仲間がひとり、またひとりと増えてきて、皆でマザーハウスを作ってきました。そして、ようやく「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のスタートラインにつけたと考えています。

会社は一つのコミュニティです。これは、働いている私たちだけで作るのではなく、お客さまと共に作っていくものだと考えています。先日開催した、10周年のお客さま向け「サンクスイベント」では、私たちの生産国の職人さんたち、そして100名を超える弊社のスタッフ、800名を超えるお客さまが集まりました。国境を越えて、そしてお客さまと私たちという立場を超えて、皆で楽しい時間を過ごさせてもらいました。マザーハウスが目指しているのは、モノづくりを通して、世界の人々がつながりを感じることです。そして、そのスタートラインにつくために頑張ってきた10年間だったと思います。

8月に行われたマザーハウス最大のお客さま向けイベント、サンクスイベントの様子。各国から職人たちも集まった。

会社をコミュニティとして考える、というのは特殊な気がします。

そうかもしれません。まず、マザーハウスでは会社と個人の関係が、「働かせる」と「働かされる」という関係ではないと思います。各スタッフが互いに協力し合いながら、会社の夢に関わり、そして各個人の夢も達成していくことを目指しているのです。ですから皆は、互いに夢とかやりたいことを認め合って働いています。

日本だけでもスタッフ数は100名を超える。

会社で共に働くことには3つの意味があると思っています。ひとつは皆で価値をつくること。協力し合いながら、お客さまや社会に対して新しいモノやサービス、ストーリーをお届けしていくことです。一人ではできないことも、仲間で一緒にやれば達成できます。次に、互いに助け合うこと。働いて稼いでいくことは生活を守るうえでは重要ですが、一方で人生は必ずしも順風満帆とは限りません。だからこそ会社というコミュニティで助け合いながら、経済的なサポートもできる限りしていくことを意識しています。そして最後が、個々人の成長をつくりだすこと。仲間で互いを指摘しあったり新しい価値観を提供しあったりすることで、人間性や仕事人としての力を成長させることができます。この3つが会社で共に働く意味だと思っていますが、これは会社というよりも仲間とつくるコミュニティに近いと思います。

多様な夢がつくるマザーハウス

実際に社内にはどんな仲間がいるのでしょうか?

言い尽くせないくらい、多様な人たちが働いています。宗教や文化、人生経験、業界経験、みんなバラバラです。そもそも目指している理念が色々な国の人たちと一緒に価値を作っていくことにあったこともありますね。また、多様なバックグラウンドの人たちと働くということは、日々色々な発見もあって楽しいものです。

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念は共有しつつも、個々の興味関心は多様です。理念と直結するような途上国にかかわる仕事をしたいと考えている人もいますが、それだけではありません。例えば、新しいモノづくりやモノの売り方に強い興味関心がある人もいます。大量生産の中で消えつつある、顔が見えるモノづくりをどう残していくか。そして、職人さんたちの思いをお客さまにどう丁寧に届けていくか、イベントや店つくりを通して日々考えています。他にも、コミュニティとしての会社づくりに興味がある人もいます。様々な問題意識や夢がマザーハウスという会社をつくっているのです。

もちろん、その問題意識が入社時からはっきりしている人もいれば、入社してから漠然としていたものがクリアになった、という人もいます。やりたいことの方向性、その深さも色々とあっていいと思っています。多様な人たちが一緒に仕事をしていく中で、多くの人は働きながら徐々にクリアになって行っていると思います。

お客様に自ら体験してもらう、モノづくりイベントなども多く開催している。

お客さまとの距離も近いように見えますね。

日頃のつながりを感じることができるのは、社内だけではありません。お客さまも一緒にブランドを作って下さっている仲間だと考えています。こう言えるのも、スタッフ同士の距離の近さだけでなく、お客さまと私たちの距離もとても近いからです。生産地へ行くツアーや各店で行われるイベント、一緒に商品開発を行う座談会など、いつも私たちのそばにはお客さまがいます。お客さまが時に厳しく、時に優しく、一緒に歩んできてくださったからこそ、10年間頑張ってこれたのだと思います。

お店は中小企業であれ、店長は経営者であれ

長くお付き合いしていきたいからこそ、長く使っていただける取り組みとしてケアやクリーニングサービスも提供している。

小売やファッションの力を信じていますか?

この10年、マザーハウスを続けてきた感じたことは、ファッションや小売には社会を変える力があるということです。マザーハウスはとっても小さい会社ですが、それでもこれだけたくさんのお客さまと出会い、仲間を作ってくることができました。モノを届けるたびにコミュニケーションが生まれて、お付き合いが始まり、続けることができる。それこそが、ファッションの力であり、小売の力だと思っています。

しかし社会に目を向けると、残念ながらその力を信じている人は増えているように見えず、むしろそこからどんどん離れて行っているように見えます。だからこそ、改めてファッションや小売の力を信じ、私たちができることを少しずつしていきたいと思います。

具体的にどんな取り組みをされているのでしょうか?

まず、私たちのスタッフはストーリーテラーと呼ばれます。これは、マザーハウスのストーリーをプロダクトにのせてお客さまに渡す役割を担っているということです。そのために、モノづくりの向こう側をきちんと説明するためのアクションをしています。

例えば、ファクトリービジット(工場訪問)。店長を中心とした販売スタッフが海外自社工場に訪問して、生産スタッフと一緒に働く研修を行っています。また、チーフデザイナーで代表の山口がモノづくりの思いを全ての商品について直接共有したり、各店舗スタッフが自ら店舗で海外工場とスカイプでつないで、職人さんの思いをお客さまに伝えるイベントを企画・運営するなど、様々なアクションをしています。また、お店から離れますが、それ以外にも、HISさんと組んで海外の私たちの工場に直接来ていただき、私たちの生産スタッフと一緒にモノづくりを体験してもらうツアーもやってきました。すでに300名近いお客さまに来てもらっています。

マザーハウスにおいてお店の存在は特別なものです。お店は一つの中小企業であれ、店長は経営者であれ、と言われています。お店はマザーハウスという一つのブランドを作る一番大切な要素ですが、一方で各地域のお客さまのために存在しているものです。各店が「その地域の為に何ができるか」と問われ、店長を中心に戦略立案、予算や人材管理、販売促進案やイベントの策定など、相当の裁量を持って動いています。そうすることで、私たちが大切にしている多様性がお店にも生まれます。お客さまにも、マザーハウスのお店はいろいろあって面白い、って言われることもありますね。

お店の大きさもお客さまも、そこで行われるイベントも多種多様。左は本店、右は青山骨董通り店。

お店で働いている人たちは、なかなか大変そうですね。

そうですね。確かにこれだけ聞くと大変そうですね。でも大変なことも仲間の力でできるのがマザーハウスの良さです。週1回各店の店長が集まる週次会、月1回、研修を含めて1日様々なスタッフが集まる月次会など、各店をサポートする仕組みが多くあります。また、店長を目指す人もいれば、ゆっくりストーリーテラーとして一人前になりたい人もいる。それぞれの成長イメージに合わせて、助け合って働いているのがマザーハウスだと思います。

また個々人の成長に時間をかけて会社が関わるためにも、ほとんどの店舗スタッフがバイトさんや契約社員ではなく、正社員として働いているのも特徴です。もちろん働き方の多様性はあるべきだと思いますし、アルバイトでの勤務を希望することも可能ですが、基本は入社時から正社員として働いてもらっています。会社もスタッフに対してきちんと責任を負うからこそ、会社のことをお客さまに責任を持って語ることができると考えているからです。

最低年収300万円。
仕事に集中できる収入環境を。

もうひとつ、ベーシックインカム制度(最低給与保証制度)というのがありますね。

そうです。マザーハウスは、最低月給を22万円に変更しました。これは販売未経験者でも新卒でも関係ありません。全員が対象です。そこにボーナスや残業代が上乗せされるので、基本的に年収300万円に到達できるように設計されています。これは将来的にも、もっと改善していきたいと考えています。最低給与が22万円というのは、一般的な初任給よりも高く設定されているはずです。この背景には、ベーシックインカムという考え方があります。

今から5年前くらいでしょうか?一人の店長から相談を受けました。それは入社したばかりのスタッフの給与の件。当時のスタッフ給与が18万円。色々と個人的な事情もあったのですが、その給与ではスタッフの生活が大変だという相談だったのです。

生活が苦しい中で、仕事に集中できる環境を作るのは難しい。そこでスタッフ全員に話し、社内で働く仲間全員が仕事に集中できるだけの給与水準を出していこうと、みんなで助け合って最低給与を定めることにしたのです。その水準を毎年少しずつ改善してきた結果、小売やファッション業界の最低給与に比べても、かなり高い水準になったと思います。

また、マザーハウスらしい給与制度でいうと、家族手当というのがあります。子供一人当たり月2万円の手当がつく、という制度です。スタッフが子供を育てる上でのサポートが少しでもできれば、という思いから導入されています。

他にも、連続2週間休暇や最低限の店長年収を500万円にすることなど、働きやすい環境を作るために社内全員で目標設定していることもたくさんあります。マザーハウスはみんなで作る会社なのです。

宗教や文化、国籍の違いを超えて働いている。

個々の価値観に合わせた挑戦を

今後、どんな組織にしていきたいですか?

個々が自分の価値観や生き方に合わせて、挑戦ができる組織を作りたいと思っています。そのために必要なことは、まずは働く安心があること。そして、互いの多様性を認め合ったうえで、自分にあった成長を作り出し、その成長が社会に対する価値になること。価値の循環を生み出すことで、更に仲間が集まる、という好循環を作り出していくことが出来たらと考えています。

マザーハウスの最も良いところは、そこに働いている仲間たちの多様性と繋がりです。その環境は働く喜びややりがい、自己発見や成長のきっかけを与えてくれると思います。この文化はずっと発展させていきたいですね。

今後の展望を聞かせてください。

最初にもお伝えしましたが、マザーハウスの挑戦はまだ始まったばかりです。世界には素晴らしい可能性を持った国がたくさんあります。そんな国々の可能性を、モノづくりを通して世界中の人々に届けていくことがマザーハウスのミッションです。

実際に今秋には4つ目の国であるスリランカで、現地でとれる宝石をベースにしたジュエリーの生産がスタートします。そして、それ以外にも準備している国もありますし、将来的にはアジア以外にもモノづくりを広げていきます。また、販売国も現在、台湾と香港で展開をしていますが、将来的には世界中で展開できたらという壮大な夢を持っています。

もちろん、私たちが始まった日本でも新しいモノの届け方について、まだまだ挑戦は始まったばかりです。新しいアクションにもどんどんチャレンジしていきたいですね。

最後にどんな仲間に来てほしいですか?

マザーハウスは皆のアクションで作ってきた会社です。だから、どんな小さくてもよいので、自分が会社を作っていくんだ、という意識を持っている人に来てほしいと思います。

そして、挑戦を楽しめる人。マザーハウスにはたくさんの挑戦が待っています。新しい挑戦をすると、必ず成功も失敗もあります。でも、挑戦自体を楽しいと思ってもらえるような人に来てもらえたらと思っています。ぜひ一緒に会社をつくっていきましょう。