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糸から始まる生地の可能性に「手しごと」で挑む

マザーハウスから、シャツ・ストール・セーターを中心とした新ブランド、ファブリックマザーハウスが誕生します。ミッションは「手しごとの未来を、途上国から世界へ」。
機械化・AI化が進むアパレル業界で、なぜファブリックマザーハウスは「手しごと」にこだわるのか。ファブリックプロダクトのモノづくりを担当し、事業を牽引し続けている田口ちひろへのインタビュー形式で、3日連続でお伝えします。

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第2回 糸から始まる生地の可能性に「手しごと」で挑む

ネパール、インド、それぞれの国で大切にしてきた哲学とは

2018.09.05

常に現場にいて、現場から学ぶ

ネパールでは2009年からモノづくりをしているんですよね。
具体的にはどのようなモノづくりが行われているのですか?

ネパールでは、シルクやカシミヤといった天然素材を使って、ストールやセーターを生産しています。
ネパールはアジアの中で最貧国に位置付けられていて、国内の産業が乏しいために、
海外に出稼ぎに行く人たちがとても多いのですが、
実は、工業化されていない分、手しごとが残っている国でもあります。
手作業でグラデーション染めや絞り染めを行ったり、
現地で小規模生産だからこそ持つ強みを活かしたモノづくりを意識しています。

ネパールの人は出稼ぎに出る人が多いんですね。それでは、国内で働いている人は女性が多いのでしょうか?

もちろん出稼ぎに行かずに国内で働いている男性も多くいますが、
私たちのパートナー工場それぞれ、女性が半数以上占めています。
私が関わる女性たちに関しての話になりますが、彼女たちはとてもたくましくて、
みんなの話を聞くと、「旦那に頼らずに自分の力で稼いで子供を育てていくんだ」という意見も多く聞きます。

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(ネパールで働く女性たち)

それはとてもたくましいですね。そんなネパール生産チームと一緒にモノづくりをする過程で、
田口さんが大切にしてきたことはありますか?

常に現場にいるようにして、生産しているみんなが日々何を思って仕事をしていて、
モノづくりの工程のなかでどこが大変なのか、といったことを現場の日常から学ぶことです。

現場にいるからこそわかることが多くあるんですね。

はい、とても大切なことだと思っています。
あと、ネパールはお祭りが盛んな国なので、一緒にお祭りに参加してみたり、
お昼ご飯を一緒に食べたり、業務外の時間も工場のみんなと過ごすことが、文化や宗教観の理解につながりました。

お祭りですか?

そうなんです。「ネパールには366日お祭りがある」と言われているほどなんです。
そのため、生産計画や出荷スケジュールをたてるには、
ネパールの場合、「その前後にお祭りがあるのか」はとても大事な確認ポイントです。

生産スケジュールにお祭りも考慮しなければいけないんですか!?

そうなんですよ!そもそも、なぜ納期よりもお祭りを大事にするのか。
それは、ネパールにはいろんな神様がいて、お祈りやお祭りがそれぞれの神様のためにあり、
日常生活に組み込まれているからなんです。
たとえば、一年に一度、「機械の神様にお祈りをささげる日」というお祭りがあって、
その日は工場の道具や織り機にもお祈りをするんです。

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(工場に突如つくられた祭壇)

困難の中でも続けることによって道は開ける

それは面白い文化ですね。文化の違いのほかにも、環境が異なり大変なことはありましたか?

本当にたくさんのことがありました。
今もインフラが整っているとは言い難い状況のネパールですが、
駐在当初の2010年は、停電が1日18時間を超える日が続き、生活するのが不便でした。
当時はどうやって生活したらいいのかもよくわからず、
ガスストーブなどネパールの家庭にある暖房器具も社宅になかったので、とにかく寒くて暗い夜を過ごしていました。

電気が使える時間のほうが短いじゃないですか!

はい。その他にも、2011年はカトマンズ市内でストライキが多発していて、
交通手段がないので、毎日片道2時間近く歩いて当時生産していた工房まで通っていました。
また、2015年にはインドとの国境封鎖が起きて、ガソリンが手に入らなくなって薪で染色したら、
ストールがいぶされたようなにおいになってしまったり・・・。

そんなこともあったんですね。それでも生産を続けてきた、その原動力はどこから来るのでしょうか?

続けてさえいれば、新しい道が広がっていくことを、これまでの経験から信じています。
ネパール事業も撤退する話が出たことも何度もありますが、それでもストールの生産は止めずにいたから、
去年、専門店に挑戦することができたし、新しい工房と出会ってセーターができるようになりました。
撤退してしまったら、いまのファブリックブランド立ち上げは絶対なかったと思います。
ネパールのような産業がない国だからこそ、私たちがビジネスを続けることで生み出せるインパクトも大きいんです。

困難な状況でも可能性を信じ、未来をみていたんですね。
ネパールでの頑張りは、インド・コルカタでの自社工房立ち上げでも活かされていますか?

コルカタの自社工房立ち上げでは、新たなチャレンジがたくさんありました。
コルカタの工房は、バングラデシュのマトリゴール工場に次ぐ、現地自社工房になります。
代表の山口が去年の秋に一人で現場に張り付きシャツのデザインを作るのと同時に、スタッフの面接を行い、
そこで出会った3人のメンバーで立ち上がりを行いました。
実際に量産が始まったのが年明けで、そこから少しずつ人数が増え、現在は約20名のスタッフが働いています。

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(コルカタ工房のスタッフたち)

3人からスタートして、今は20人も働いているんですね。

はい。しかし、今日までいろいろなことがありました。
はじめコルカタ工房に来た時は、ネパールにいた経験もあるし、
バングラデシュと同じベンガル語を話す地域だから、
なんとなく、今までの延長戦でいけるのかな、という考えをもっていました。
それで、5月に代表山口と副社長の山崎が出張に来た際に、バングラのマトリゴール工場と同じように、
頑張った分だけお給料に反映される、成果報酬のシステムをコルカタチームにも取り入れようと、
皆の前で発表しました。
その日に二人は日本へ帰国したのですが、翌日、縫製スタッフが全員無断欠勤しました。

全員が無断欠勤ですか!?

全員が無断欠勤です。
彼らが慣れ親しんできたのは、年功序列制度で、
年齢や経験を超えて成果で評価される、という考え方が新しすぎて、
「マザーハウスは年上の人を敬わない」といった極端な解釈をされてしまったのです。

文化や考え方が日本とは異なるんですね。

スタッフ全員に不満があったというよりは、一部のスタッフが不満に思ってそれを全員に従わせていたようです。
そういったみんなで結託して行動する、というようなやり方も、
不満を直接言わずに無断欠勤する、というストライキのようなやり方も、今まで経験したことがなかったので、
誰も来なかったあの日は目の前が真っ暗になりました。

確かに、すでに生産スケジュールも決まっている中で、そのような状況はつらいですね。
その後、スタッフはちゃんと工房に出勤したんですか?

はい。ストライキの後、全員と面談をして、「何が不満なのかを私たちは知りたいんだ」という態度を示しました。
インドでは、上司に意見をする、ということは一般的ではないので、不満を言わずに無断欠勤したわけですが、
「不満があるならば直接言いなさい、そうでなければここで働き続けなくていいです」と言いました。
良い工場にしたいから、あなたたちの意見も聞きながら、制度を整えていきたいんだ、と伝えています。

目的はお客様に喜んでもらうこと

その後、スタッフとの関係性は改善しましたか?

まだ半年程経った状態なので、まだまだ関係性はすごく築けているとは言えないのですが、
とても大事なのは、単に楽しい工房を作ることではなくて、
お客様に喜んでいただくために良いものを作る、そのために真剣に働く、という工房の目的を
みんなが日々意識するようにすることだと思います。

確かに。でもそれを理解してもらうのも大変ですよね。

そうですね。なので、工房では朝会の時間を作ることにしました。
朝会では、今日のゴールや注意事項の共有がメインなのですが、
毎朝日本でシャツがいくつ売れたのかも報告しています。

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(コルカタ工房の朝会の様子)

お客様を意識するきっかけになりますね。

シャツの販売がうまくいった日には、みんなで朝会の時に拍手して喜んだり、
出荷が無事に終わったらお互い頑張ったね、と言い合うなど、
メリハリをつけて楽しむ時間をつくることも大事なんだと学びました。

第1回 素材が輝く手しごとでのモノづくりに挑む新ブランド
第2回 ネパール、インド、それぞれの国で大切にしてきた哲学とは
第3回 9/6(木)の公開です

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