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MOTHERHOUSE MAGAZINE
山口絵理子の日々思うこと。

ムンナの教え

2016.10.12

「全てが自分の仕事だと思いなさい。」

私が1人でサンプルをしていると、ムンナがそんなことを言っているのが聞こえた。

相手は、入社1年の電気系統を管理するスタッフ、マスンだった。

ムンナとマスンはバングラが休暇に入ったこの二日間、最悪にも私が「作り続けたい」と言って
ムリに工場を開けているので、勤務になってしまった。

本当に申し訳ないと思っている。だからランチには最高のビリヤニ
(お肉とご飯のベンガル人が大好きなもの)を日々頼んでいる。

マスンとは会話をしたことは挨拶くらしかなかったのだが、
その後、彼は私のサンプルワークをずっと、ひたすら見ていた。

私は異なるサンプルを同時に4つくらい作って進行しているので、
彼は一体何をやっているのか分からなかったみたいだった。

でも時間がたつにつれて、私が紙の模型を作っているとささっとマスキングテープを出してくれた。

「あ、ありがと。」

さすがムンナの教えだなあと思った。

しかし、私が今度は革を縫っていて下糸のボビンが切れた時、全く同じ糸のボビンを持って来た。

(?縫えるのか?)

今度は、3重の革で強引にミシンで縫っていた時バキンと針が折れてしまった。

(まじか・・・。やっちゃったよ・・・。)

私は針が折れると寿命がきたみたいに、もう何もできなくなる。それくらい機械音痴なのだ。

(ああ、まだ全然残っているのにどうしよう。。。)

1人で内心焦って絶望感でいっぱいになっていると、マスンが今度は
なんとマイナスドライバーを持って来た。

「ちょっと、どいてください。マダム。」

「へ?」

なんと彼はいとも簡単に針をつけかえて言った。
「さあ、どうぞ。」

「君は、マスンは、一体この工場で何をしているんだい?」

「?ボクは電気のエンジニアです。」

「なぜそんなに色々できるんだ?」

「停電とか、電気関係にトラブルがない時は、テーブルのサポートをしているからです。」

私は本当に感動してしまった。

夜8時、だいぶ疲れて屈伸をしていると、ムンナが温かいコーヒーを入れてくれた。

「ムンナの教えは浸透しているねえ。」
私はマスンに感動したことを伝えた。

すると、
「これは僕の教えじゃなくってマトリゴール全体の教えです。」
と彼はニコニコしながら言った。

そんな教えは工場にいると、誰かが頂点に立って指示したことや社訓でもなんでもなく、
姿勢をお互い見ながら、そんな姿勢を持っている人が徐々に昇進することを
見ていて浸透している状況にあるのが事実。

「どうやってそんな工場を作ったんですか?理念研修は?」ってよく講演とかで聞かれるけど、
大事なことは、本当に言葉じゃないし、聞いた事も言った事もない。

誰も見ていない時に自分の仕事じゃない仕事をすること。

それって実はできる人は本当にわずかで、本当に難しいこと。

ムンナはもう古株なので、今は床掃除なんてしなくていいのに、彼は気がつくとモップで床をふいている。

「なんかきれいになったなあ」って言ったら、
「みんなが休みだからいいチャンスなんですよ、床掃除の。」って笑ってた。

「私もムンナのような人になりたいなあ。
今は自分の仕事だけでも全然終わらないの。」って言ったら

「そんなことありませんよ。昨日だけでも4つもバッグを作って。どれも新しい構造ばかりだ。」って言われた。

彼はなんと、しっかりと私が作ったバッグを見ていて、更にそれが新しいものだとも把握していたのだった。

確かに窓から見える喧噪の街は、渡航延期したほうがいいレベルの危険なニュースがまだ続いている。

でも、そればかりじゃない。こんな素晴らしい人たちがいるのもまたバングラデシュであること、モノにしてやっぱり伝えたいんだ。

明日もムンナとマスンと頑張ろう。

(写真:革にのりをつけるマスン)
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