見出し画像

紫陽花から見えている工場の風景。

作る現場の話を始めると私は何時間でも一人談話ができるほど、奥深く、面白く、その世界はデザインとは違う論理で動いているがデザインと隣接する非常にユニークな領域だと常々感じている。


作る現場と一言で言っても、「工場」「工房」「アトリエ」「作業場」「ラボ」色々な形態がある。一般的にはアトリエは工房と同義で、ものづくりの職人が働いている場所を指し、工場とは機械を使って製品を作っていることが多く、規模も大きい、と認識されている。


私は、常々「工場」と「工房」のハイブリット型の工場設計を狙っている。

工場においては、規模や効率性、オペレーションの整理が存在し、工房で大事なのは、職人の個性や手仕事の付加価値だ。


それぞれ対立する議論は度々起こる。


そんな時に、「そもそものゴールってなんだっけ?」と立ち戻りながら話をする。


私は、大量生産の中で人間が機械より安いから働いている現場を見て、怒りと憤りを感じたことがきっかけで起業をしているので、機械では生み出せない人間の技術の崇高さを追い求めたいと根本的に思っている。


そこには効率性という概念ではなく、「美」への飽くなき挑戦がエネルギーとして流れているべきだ。


これまで見たことのない、ため息の出るような物。


おそらくそれは商品ではなく作品かもしれない。そんなものを生み出したいし、生み出したいと思っている職人と共に働きたい。


工場でそんなことを話すと、「納期が」「価格が」と言われる。それは、作った後に多くの人に届けたいって欲が出るから、ちゃんと考えるよ、と言う。でも、決して納期や価格が最初の目的ではない。


この順番を間違ってしまうと、工場の未来図が変わってしまう。

そして、私たちの存在意義もまた変わってしまう。

さらには、商品が纏う空気も、ブランドに流れるスピリットも変わってしまう。


今のスタッフの数で、最高の売上を作ろうと思えば、どんどん機械は入れた方がいいし、バングラデシュもインドも周りの工場は数万個単位でライン生産をしている。

わたしはそれをやるために、マザーハウスを作ったわけじゃない。

毎回、この議論になると、こうした原点を話したりする。話し始めるとついつい熱くなって、討論会になってしまうんだが。


紫陽花(アジサイ)というボストンバッグは、そんな私の考えを作るプロセスに落とし込みながら作られた。


紫陽花はグラデーションの特殊な加工をしたオリジナルの革を使い、さらにグラデーションの濃淡を考えながら細かいメッシュパネルを編み込み、そこからボストンバッグを木型を使いながら作り上げると言うもの。


散歩をしていて、きれいな紫陽花を見て、その美しさをバッグにしたらどうなる?って思ったからだ。

背景の物語は美しいのだが、作る工程はあまりにも難しく、時間がかかる。

「これを作れる職人は限られている。」生産スケジュールの見通しが立たない商品を前に、みんなすごく顔が曇っていた。


「うん、わかっている。だから職人を選ぶ。選ばれし職人が作る逸品になる。」



これまで全てのテーブルを管理指導(スーパーバイザーと言う)することが役割だった2名とテーブルリーダーの中から最も優れた技術を持つ職人の1人に声をかけた。


ミトゥ、モニル、ジョシムと言う名前の職人が選ばれた。

3人はこれまでの管理の仕事が手薄になるのでは、と少し不安を抱えながらも、「俺しかできないならやってやるか」という何とも言えない誇らしい感情を話してくれた。


そして、フロア全体も、いつもたくさんの指摘をテーブルに出していた3人が「本気を出したらどうなるのか」ってワクワク、ソワソワしながら、その“特別なテーブル”を見ている。


生産をしていると毎日それなりに平坦な作業が続いている場所で、こうした変化を生み出すことが私は好きだ。


最初は、拒否反応や衝撃の方が強く表面に出るが、その後、少しずつそれが定着しながら職人の誇りやプライドをくすぐり、技術への向上心やリーダーの育成など、さまざまな化学反応が工場全体に行き渡る。はじっこからニコニコしながら見ているのが好き。


紫陽花はそんな工場の変化を巻き起こしながら、静かに、集中しながら作られている。

私には、少しずつそのテーブルが紫陽花用のテーブルから、プレミアムな商品ラインを作るテーブルへと変化して行ってほしいなっていう願い、イメージがある。

そして、そのプレミアムテーブルに入りたいテーブルリーダーが増え、スキルの向上の必要性はおのずと生み出され、切磋琢磨が促進される。


そして、さらに将来、スーパーバイザーはプレミアムテーブルのスーパーバイザーになり、工場全体の底上げが実施される、、、、。「理念を実現する工場のイメージ」は紫陽花の後に広がっているのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?