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笑顔をバッグにのせて。

「コロナ禍でも自己ベストを更新する新作を打ち出すんだ」


感染者が増えるバングラデシュ、全く届かないワクチン、休業する店舗、例外なく私たちもネガティブなニュースを毎日浴びていた2021年。

予定していた商品がお店に届かない、なぜなら予定していた生産量に届かない、なぜなら予定していた革がまだ仕上がらない。


そんな連鎖の中で、どうやって新作を作ろうか。


悲観したらきりがない八方塞がりな状況の中で、ネガティブな言葉もいつもより耳に届いた。
「ファッションに未来はない」「小売って難しいよ」


そうした中で、私は内心、フツフツと「負けるもんか」という野心のような気持ちが湧いていた。
振り返れば、バングラデシュでテロが起きた時も、サイクロンに襲われた時も、どんな時も「負けるもんか」って思ってた。

私たちが目指している遠い遠い夢――途上国から世界に通用するブランドをつくるーーは、これくらいで諦めるような軽い誓いではなかったはずだ。


他ブランドが大きく抱えた在庫を消化したり、撤退する中で、私の中の「フツフツ」は明確なターゲットとなってきた。

(2021年の秋冬の新作にこそ、次元の違う、最高のMade in Bangladeshを作りたい)

正直に言って、崇高な美への追求では全くないし、崇高な社会に対する意識の高い思いもない。

ただ、負けたくなかった。
こんな時代にも、こんな環境にも。

何もコントロールできないって、両手をあげる前に、両手を精一杯動けるまで動かしたい。

そう思って、私は今季の鞄を作り始めた。

「マムンさん、次の新作は最高の革を開発したい。厚さは最厚で、シボは小さく繊細で、、、」

なめし工場の人とも電話で直接交渉した。

「最高の革が欲しいんだ。」私のリクエストを伝えると

「エリコさん、それが欲しいならヨーロッパの革を輸入したらどうか?」と優しい声で笑われたりした。

「うんうん、それをバングラデシュでやるから、マザーハウスなんだよ!!」と私が即答すると、大笑いしながらコロナ禍でのあり得ない新規開発に着手してくれた。

出したい色は、非常に繊細だった。日本人の肌に合う色は、西洋の色ではないって確信が徐々に強くなってきたからこそ、(3色出したんだけれど)全ての色の遠隔チューニングは、困難だったがやり遂げた。

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私は、自宅で型紙を作っていた。

今回作りたいものはわりと早く決まっていた。

鞄、いやバッグ業界にはカテゴリーが存在し、その中でもメゾンブランドが必ず王道として扱っているカテゴリーがある。

それが“トップハンドル”だ。「一本手」と「鞄」業界はいう。

(ハンドル(持ち手)が1本しかないもの)

私は15年目にして、この王道のトップハンドルを自分の中で消化してみたいと思った。

「日本人である私が、バングラデシュのみんなと作ったらどうなるか」

デザインを自分中で落とし込んだ。

ミニマムな中にゆずれない3つの柱を立てた。
一つは、有機的な曲線。
二つ目は排除した金具。
三つ目は、身体性を考慮したフラップ。

これが私のトップハンドルだった。

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しかし、デザインをクリアしたらいいわけじゃない。工場をデザインに合わせて引き上げることが大事だ。

思った以上に長期戦になり、サンプルは日本とバングラデシュを何往復もした。
ところどころに各国のロックダウンが相まって、物流が混乱して、時間は思った以上に流れた。

それでも忘れなかった思い。それは、15年間続けている私の中での自分との約束「毎年工場のベストを更新する」ことだった。


サンプル職人モルシェドと何度もラインでビデオ通話をした。
「今回こそはいけると思う。サンプルを送るよマダム。」
10日後くらいに受け取りまたビデオ。

「よくやったよ。でもまだここが美しくない。」
「そうか・・・。わかった。もう一度やってみるね。」

「うん。細部に、今までよりもずっと細部まで、ジロジロとバッグをみてね。歪んでいる、曲がっている。それをみた後に、少し遠くから、バッグをみてね。佇まい、雰囲気が美しいか。もっと、上に行くんだよ。ブランドが。そのために作っている。わかるでしょう?」


「うん、わかる。こんなことが始まるなんて思っていなかったからね。何が起きたのかなって・・・。」
「あはは。これができるようになったら、きっと新しい世界が見えるよ。」
「ここで習得した革すきは、色々なものにすでに使えるよ。刃を取り替える。」
「うん。芯材の貼り方もそうでしょう。」
「うん。芯材は、少しずつ慎重に貼らないで、大胆にはる。」
「うん。」
「でもマダム、僕が心配しているのは、僕ができるようになっても生産ができるかどうかだよ。」
「うん、そうだね。でも考えていることがあるんだ。今回のバッグを作るテーブルは限定する。選ばれしテーブルリーダーだけがこれを作る。」
「すごく賛成。候補をあげていい?」
「もちろん。だいたい4人だなあと思っているよ。」
「うん、そう。フィローズと・・・。」
「そうだね。まずは彼らに徹底的に教えて。一緒にプレ生産をしよう。」
「わかった。」
「そして、私がプレ生産は検品する!」
「ぎゃーーー!!!!」

笑い声と共に、強烈な試練がマトリゴールに訪れた。
ずっとずっと、「全てのテーブルで、一緒に生産する」ことをやってきた工場に、職人階層が出現したんだ。クラフトマンシップを醸成する最初のステップに着手した。それがこのバッグの工場へのギフトだ。

選ばれた四人の戦士はこんなに可愛い顔をしている。

職人トリミング

ハレーションが巻き起こるマトリゴールを想像すると、私はニヤニヤが止まらなかった。そしてついに、何度ものサンプルやり直しを経て、バッグが完成した。

そして、私はこのバッグに「Emy」という名前をつけた。

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フラップの中央が、まるで笑ったような顔になっている。
バッグを作る時いつも「この子」という風に呼んでしまうんだけれど、このEmyはまさに、様々な試行錯誤の道のりを経て、人懐っこさと凛とした軸を合わせもった美人さんになった。

そして、この中央の笑顔マークは、ただの単純な装飾ではなく、この緩やかな曲線に指をひっかけることで、フラップの開閉が格段にしやすくなるという力学的な実験に基づいて考案したもの。

伝えたいことは山ほどあるけれど、やっぱり最後のメッセージは

「Keep Smiling.」 

大変な時代でも、笑顔を忘れないで。

鞄を手にした時にちょびっと明るい気持ちになれること、そんな瞬間を届けたいって思った。

笑顔って、きっと、道をひらくって信じているから。

バッグを開け閉めするたびに、そんな力が伝播したらいいなって思っている。それが私が今季届けたいメッセージです。

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」
私たちはその目的地に向かって、逆境の中でも笑顔を忘れずに進んでいこうと思う。

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