見出し画像

「夜空」という鞄について。

「夜空」という鞄がある。

2015年に発売をして、ロングセラーになりマザーハウスの今を支えてくれて

いる2ウェイのバッグだ。

画像8

瞬時に、リュックにもワンショルダーにもなることから、働く人やお母さん、大学生、本当に幅広く愛されてきた。

そんな夜空のバッグを新しくアップデートすることをコロナ禍で決意し、これまで一年近く開発に集中してきた。

なぜ新しくしてみたかったか?

理由は、6年経った自社工場で、職人の力も、素材も、もっとグレードアップしたものが作れるんじゃないかな?作ってみたいな、と純粋に思ったからだ。

私は絵を描かずに、型紙から作成するタイプなので、既存の夜空のバッグを解体しはじめた。

解体しながら当時の型紙の構造を思い出したり、革に触れてさまざまな変化があったなあと感慨深く振り返っていた。

一番変化したのは、「革」という素材そのものだ

この6年で、重厚感のある、耐久性の高い革の開発を行い、なめし工程からの「素材開発」をコロナ禍でも工場長と一緒に主導してきていた。

画像1


素材から作っている私たちにとって、川上の進化は、直接商品に貢献する。

これまでは光沢感があり、表面はスムースな革だったが、しぼ感がある分厚い革はお客様にとって、多少荒く使っても大丈夫な安心感があるはずだとも思った。

そして、全体的なフォルムをより奥行きの感じる構造になおし、マチの部分を立体的に設計した。細かく書くとマニアックすぎるので割愛するが、それぞれのパーツの革の厚さと芯材の組み合わせを見つける旅路が開発のメインだったと振り返っている。

画像2

画像3

大事なことは、そうした一つ一つの知識や経験値、判断軸こそが、5年前には持ち合わせておらず、5年間出してきた商品たちと、その裏にある数千の試行錯誤によるものだということ。


失敗と実験なくして、成功はなく、万が一成功があっても喜びは伴わない。

だから、商品がたとえ、売れなくてもそこから、次の学びをもぎ取ることはいつだって自分に課してきた。

新しく出来上がった夜空は、自立して、凛としていて、バッグを持っていくオケージョンが増えるようなイメージを喚起してくれた。

画像4

プレ生産(生産の前の準備生産)の段階では「思っていたよりもずっとずっと難しい」と工場からの悲鳴があがっていたのだが、なんとか今日にこぎつけたのは、工場の底力以外ない。

実は夜空という商品は、本当に多くのコピー商品を見かけるようになった。
ずっと「すごいなあ」と思っていたブランドが酷似したバッグを打ち出した際に、「さすがにこれは」と先方に話をしに行き、先方も認めたケースもある。

夜空だけじゃない。そうしたことが、最近では非常に多くなる中、「デザイナーってなんだろう・・・。」とたびたび思う機会が増えた。

技術と違い、ファッションでは革や色が違ったらデザインの独自性を守ることはほぼできない。しかしあるデザインを考えつくのは一瞬ではない。その間の試行錯誤と現場で関わってくれたたくさんの人もいる。
何より、こうした経験をするたびに、「最初の0−1をした人が馬鹿をみる世界」に自分が生きているように思えて、それが一番モチベーションをさげていた。
でも、そんな自分のメンタルをどう立て直せるか考えたときに、純粋に「もっといいものを作ろう」と思った。
(もちろん、そう思えるまでは家の中で散々旦那に愚痴をこぼしたりふてくされていたんだけれど・・・。)
それが、この新しい夜空の開発中の私の心の状況だった。

だからこそ、表面では見えない部分や、ディテールに、絶対他社にできないだろうと思うテクニックを盛り込んだ。

画像5

画像6


既存の夜空はもちろんは併売する。
でもその隣に5年間の進化や深化をお見せできる商品として、新しい夜空ができあがったことは、デザイナーの意地でもあり、工場の誇りでもある。

数字じゃないんだ。

新しい物を作ろうとするときの原動力は、そうしたたくさんの思いを抱えた人々の胸の中にある。だから、見たものを解体して同じようなものは作れても、その真ん中に宿る熱い部分は乗り移らない。そう信じているし、信じられるまで、手を動かそうと思っている。

新作の発売日なのに、全然爽やかな文章じゃなくて申し訳ない。
でも、ずっとずっと言いたかったから。

デザイナー以外の人にとってはどうでもいい思いなんだけれど、自分にとっては生命線な思いを、自分のnoteに書くことで、自分のために、前に進んでいきたいと思って。

画像7


※新作特設ページはこちら

※Youtubeにて、夜空のこだわりについてもマニアックトークを撮影したので是非みてみてください♪


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?