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「大量生産」と「手仕事」は、対立しない。 私が挑戦した、「妥協じゃない」ものづくり

私たちのバングラデシュの自社工場では、「美しい職人芸を、効率的なオペレーションでつくる」ということを実践してます。

これまで作ってきた4000種類以上のバッグはすべて職人の手でつくられます。一方、丁寧な手仕事ではありますが、私たちの工場では毎月1万個近いバッグを生産しています。

「いかに手仕事を効率的に行うか」を考えて工場をつくってきました。

もしほかの一般的な工場との違いがあるとしたら、「ライン生産」を採り入れてないことかもしれません。

生産フロアにつくった13の小さなグループ

生産フロアには、13の小さなグループがあります。それぞれが、まったく違う型(モデル)をつくっているのです。

「トートA」のグループ、「バックパックA」のグループ、という具合に。ひとつひとつのテーブルでは、裁断チームが素材を切った後から、最終仕上げまで、一括して、担当する。商品の全体像が分からないまま作業をする「分業」と違って、仕事がテーブルごとに、ある意味完結しているのです。

だから工場でありながら、「僕は、このバッグを担当する」という言葉が、職人たちからよく聞かれます。

 職人さんもその方が、成長する

テーブル方式の利点の一つに、不良品が出たときにどのテーブルが責任者なのかを明確にできる、という点があります。

私たちの商品には、お客様に見えないところに小さい数字の書かれたタグがついていて、その数字をトレースすると、いつ、どのテーブルでつくられたのかがわかります。日本から不良品の情報があがると、常に生産テーブルへとフィードバックする仕組みにしているのです。

各モデルの売り上げが明確になると、テーブルごとの競争意識も生まれ、職人のモチベーションにつながってきます。

 かつて、別の企業の工場で「ライン生産」を視察した際に、糊(のり)をつける職人が、一日中糊をつけている姿を見てきて、感じたことがあります。

「この職人さんの技術は成長するんだろうか?」

「一人ひとりの職人の技術力を高めるためには、ゼロからバッグをつくれるようにならないといけなんじゃないか…」

テーブル方式は、そんな問題意識から生まれました。

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バングラデシュの工場でバッグを製作する様子

テーブルごとに生まれる「小さな工夫」

「ライン生産」の利点は、圧倒的なスピード。マザーハウスのテーブル生産においても、大量生産型工場をヒントにして、手仕事を効率化するための小さな工夫をたくさんしています。

たとえば、道具入れ。

同じテーブルのすべてのスタッフが手に取りやすいように、どんな形がいいか、どこに置くのがいいか、工場スタッフがみずから開発し、工夫して配置しています。

たとえば、「コバ塗り(革の端になめらかな処理をし、色を塗る方法)」。

これはもっとも時間がかかる作業ですが、彼らは自分たちで、わずか数ミリの革の端に均等に色を塗れるスティックや、染料を入れたポットを開発しました。

たとえば、糊をつける作業。

一枚一枚塗るのではなく、均等な段差で革を配置し、いっぺんに大きなハケで塗ります。これもまた一つの小さな工夫。

そのような工夫を自分たちで考えることを奨励されるのは、テーブルごとに「品質」と「スピード」を評価するという、人事評価制度があるからです。

こうした努力が身を結んでか、私たちのバッグはよく「手仕事なのに安いわねえ」と言っていただく機会に恵まれます。

大量生産型の武器である"効率性"と"運営の力"が、"人間の手による付加価値"を生むように設計されれば、労働は単純労働ではなく、創造になるんです。

「労働とは本来は、喜びだった」─私の尊敬するウィリアム・モリスの言葉です。

大量生産もやり方次第で、人間らしく、人間のために、実行できるのだと思います。

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インドネシアのジュエリー職人

価値観によって違う「仕事の意味」


大量生産と手仕事の「サードウェイ」について少し話を続けます。

面白いことに両者は、働いている人の考えも、価値観もまったく違います。おそらく「仕事」という言葉の意味も違うのではないかと思います。

だからこそ、これまでこの両者は同じ世界にいるようで、実はまったくと言っていいほど交流がなく、むしろ批判し合ってきたのではないでしょうか。

対極として見られることに慣れすぎて、お互いのよさを発見して組み合わせてみようという発想すら、もてなくなってしまっていたのかもしれないように、私の目からは映ります。そしてだからこそ、大きな可能性を感じています。

大量生産と手仕事のよさをピックアップし、かけ算し、新しい付加価値を生み出す。それこそが、また新しい需要をつくり上げる可能性を秘めている。

こうした、「妥協じゃない、新しいものづくり」こそが、サードウェイ的ものづくりだと、私の胸はずっと高鳴り続けています。

新しい付加価値はきっと、新たな価格や形状も含んだものになるでしょう。

バングラデシュで実践しているサードウェイの方法は、必ずしもネパールやインドネシアで応用できるものではありません。

それぞれの国に適した、異なるサードウェイが必ずある。それを見つける旅が、本当に楽しくて仕方ありません。

生産を効率的にしながらも、もっともっとその人にしかできない技術や、手仕事の付加価値の高みを目指していきたいのです。

最終的には規模でも質でも、その国に合った方法で、国や地域や職人の「個」の力を引き出すことができたら、価格競争を避けながら、国際市場のスポットライトをすべてに国が当てることができるのではないか。

私はそれを夢見ているのです。

*このエントリーは『ThirdWay 第3の道のつくり方』から一部を抜粋してnote用に編集したものです。多くの方々に「ThirdWay」の思考法をお届けしたくて、本の内容をいくつかのパーツに分けて再編集して、noteで公開していきます。本やnoteの感想を「 #私のThirdWay 」というハッシュタグをつけてぜひ投稿してください。一つ一つ大切に、すべて目を通すつもりです。どうぞ、よろしくおねがいします。

(編集協力:宮本恵理子・竹下隆一郎/ 編集:大竹朝子)


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