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山口絵理子の日々思うこと。

新事業『修理・回収サービス』にかける思い

2020.05.16

コロナ禍で、哲学に立ち返り、そして未来を展望した時に、立ち上げたいと強く決意し、一ヶ月で実行に移した新規事業がある。

今日は、その事業「修理・回収サービス」についての思いを書きたい。

2月後半から、状況が一変し悪化する世界情勢、休業するお店、工場。
私たちの製造拠点6カ所は全てロックダウンに入り、国内32店舗も休業。

オンラインの売り上げは3倍になったが、オフラインでは作ることも売ることもできなくなり、私自身は日々一番何に時間を割いていたかというと、自分自身が24歳の時に打ち立てた哲学を見返していた。

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」

それは強固で、14年間、一ミリもぶれず、700名を一致団結させてきた。

よく取材では「強い哲学があり、ブレない軸がすばらしい」と言われることがある。でもきっと、それは、強い哲学に縛られたことがない人が言えるセリフだなといつも感じる。

「哲学」っていう言葉は捉え方が非常に難しい。新しいものを生み出そうとする今のような変化の時期に、無意識に哲学の存在が、私たちの手足を雁字搦めにしていないかは実は細心の注意が必要なことは、あまり取材では聞かれないが、大事なことだ。

コロナに入って、何度も自分自身の哲学を再検討している創業者である私は、一つの新規事業を立ち上げたいと考えた。

それは、哲学の刷新をするのではなく、哲学の「深化」をするアクション。
事業内容は、シンプルだ。
自分たちのバッグを使ってくださる方への「修理・回収サービス」だ。

コロナに入り人々の行動変容がどう起こるか、ということが外れてしまうと、この時期の判断は全てが外れてしまう。しかし実際には、「読めない」「わからない」ことだらけだ。
そんな時に、その場凌ぎのアイディア、売上・利益を上げるためだけの新規事業は時代が変われば姿・形も変わってしまう。

私自身が辿りついた、この時期に行うべき新規事業は、「こういう時代だから思いついたアイディア」をやるのではなく、「これまでずっとやりたかったことを、コロナを機会に資源集中し、やりきる」という内容だった。

私は兼ねてから、手仕事から生まれた「物」には命が宿っていると思っている。アイスクリームの「BEN & JERRY」では、フレーバーのお墓があることをご存知だろうか。廃盤になったフレーバーに敬意を払い、バーモンド州の丘の上に存在する。
私はずっとそのことが好きで、彼らのアイスクリームを食べている笑。

物が生まれる背景にはそれを生んできた様々な人の汗と涙と膨大な物語がある。だからこそ、お客様のもとで元気に役に立ってほしいと願い、私たちはこれまで「ケア事業」を徹底してきた。「革は傷がつきやすくて、扱いが大変」と懸念されるお客様に対して、店頭にて「無料のケア、有償のスペシャルケア」を提供してきた。
私たちのシンガポールのお店では非常に珍しがられる。「ケアをしたら、次の商品を買い換えないじゃないか?」と逆に心配されるお客様もいた。

当然使われた年数に限らず、修理も受けつけている。年数が長ければ有償サービスになるが、糸ほつれや裏地が外圧で破れてしまったなど、様々な経年変化によって起こることを料金別体系にし店舗にて受付をずっとしてきた。

しかし、この「物の人生」についてコロナに入り、もっと深く考えるようになったのだ。少なからず物をジャンジャン買うよりも、丁寧に使い続けたいと思う方向へ私たちのマインドはシフトしているのではないだろうか。

そんな時、この「物の人生を長くする」修理についてはもっとスピーディーで、きめ細かいサービスができないだろうか?修理期間は最短でも3週間程度かかっていたものから大きく短縮し、修理のお見積もりがすぐにオンラインででるようにするなど。

そして、お客様によっては、(光栄にも)私たちの鞄を30個以上お持ちでクローゼットがマザーハウス だらけという方も少なくない。そういったお客様はもしかしたら「物の終わり方」について悩んでいるのではないだろうか?大好きなぬいぐるみを捨てられないで数だけ多くなる私のように笑。

そう、「回収サービス」をはじめよう。

回収させていただいた方には通常のお買い物に使えるポイント1500円分の還元と、1000円分が途上国の今最も必要だと思われる公衆衛生対策への寄付として現地に渡る仕組みとした。(ソーシャルポイントカードと呼んでいる)

さあ、回収した後どうするか。

私は今、回収しそれらを「甦らせるプロジェクト」に夢中になっている。
REMAKE事業だ。もう5年以上前からやりたかったが、「解体コスト」が尋常ではなく断念した経緯があった。
そのハードルを克服すべく、これまで私たちの修理を請け負ってくれていた日本の修理工房と再三議論をし、全面的な協力を取り付けたのが今月だ。
解体時間を割り出し、それからリメイク商品を10型程度共に開発している。

REMAKE商品が店頭に並ぶのは回収事業がスタートしてからタイムラグがあるが、それらがコロナの中での新作となるだろう。

物の終わり方を設計することは、作るものにとって、精神的にも難易度が高い。完璧を求めて作り上げたものが、数年間ご使用になった後に、完璧なものに再生させるのは、美しさの定義の変換も多少必要だ。ビンテージっぽくレザーを再度ケアして、ある程度補修して使うなど、通常の何倍も実は手間がかかるから一般的に革のリメイク商品は存在しないに等しい。

それでも、クローゼットの場所を取るだけのバッグが、再び息吹を取り戻し、また誰かの役に立つ商品として社会に循環していく流れこそ、ソーシャルデザインだと私は信じている。

どれくらいのお客様が私たちのバッグを回収してほしいと願っているかは分からないし、修理に関してもサービスの進化がお客様に伝わるかどうかもやってみないと分からない。

しかし、ファッションデザイナーは、一体何をデザインしているんだろうか?と自問自答してきた。
物に関わるものとして、「作り手の責任」とは一体なんだろうか。
私たちは、コロナに直面し、新しい物の在り方、流れ方を提案する立場にいるのではないだろうか。

作り方にこだわってきたものたちが、その終わり方に同じような熱量で、こだわりを示せた時、私は、真の意味での「持続的な社会」が訪れると思っている。
これまでのサステナビリティの議論は、あまりしっくりこない。
それは、環境負荷を生み出したものと、それを減少、削除しようと頑張るアクターが全く異なるからだ。

問題の根底は、作り出したもののマインドではないだろうか?それなのに、全く異なる世界の意識の高いアクターたちが躍起になっていて、当の本人たちは自分たちの国、利益のことしか考えていないのならば、それこそ持続可能であるはずがない。
変わるべきは、私のような作り手、生み出した側にある。
生み出した側が、物の終わり方を使い手と相談しながら、うまくガイダンスし、導いていけたなら、人、物、資源全てが繋がる、素晴らしい社会デザインへと発展するのではないかと根本的に思っているのだ。

こんな私の考えは理想主義的すぎると批判されるかもしれないが、最も打撃の厳しい小売業界で、一社でもそうしたモデルを示すことができたら、貴重な大海の一滴になると信じている。

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