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MOTHERHOUSE MAGAZINE
山口絵理子の日々思うこと。

大きなビジョンと小さなゴール

2019.08.19

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私がマザーハウスを起業したのは、大学を卒業して、大学院に進んだ後のことです。気づけば13年もの時が流れていました。本当にあっという間。

今ではマザーハウスの工場や工房が、バングラデシュ、ネパール、インドネシア、スリランカなどアジア各地にあります。毎日せっせと稼働しているのがたのもしい。

現地の素材を使ったり、地元の職人たちと一緒に働いたり。その国が持っている「経済力」に関係なく、その国ごとの「個性」をどんどん引き出しながらブランドを育てているつもりです。

今回は、「大きなビジョン」に向かって歩むための、私なりに設定している「小さなゴール」の大切さについて書きたいと思います。

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バングラデシュのリキシャ

私は起業する前、大学のゼミで途上国の発展を考えるための開発学を勉強していました。その後、4年生のときにアメリカ・ワシントンの国際機関で働いたあと、「アジア最貧国のことを知ろう」と、縁もゆかりもないバングラデシュへ行きました。

空港に降り立ち、町へ出たときの「におい」を今でも覚えています。

泥沼のような、大衆浴場のような場所。その周りに、掘っ立て小屋が乱立し、異様なにおい…。ゴミをあさる人もいて、街中には、すえたにおいが広がっていました。

私にとって、初めてのスラムでした。

「もっとこの国のことを知りたい」「バングラデシュの役に立ちたい」

私はそう思って、リキシャ(バングラデシュ式の三輪自動車タクシー)でダッカ市内の大学院に行ってそのまま勢いで入学し、そこから私の長い旅が始まっています。

ところで、こうした私の経歴を話すと決まって、言われることがあります。

「信念の人ですね」

「ずっと社会貢献という理想を捨てずに生きていて、立派ですね」

褒めていただくのはうれしいけど、「私はそんなすごい人ではないんだけどな……」と思ってしまう。

もちろん原点にあるのはバングラデシュ。「この国の力になりたい」という思いは消えていません。

少しでもバングラデシュの人の暮らしをよくしてきたいと一日たりとも思わなかったことはないし、ぼろぼろになりながらも、自分の信じた道を突き進んできたという自負はあります。

でも、社会貢献がしたいという思いだけではビジネスはできない。

日本では約200人、グローバルでは約600人のスタッフが

マザーハウスで働いている。

給料を払い、彼らの家族をも支えなくてはならない。

社会的に熱い思いがあったとしても、現実に出店している商業施設では、100年以上の歴史のあるビッグメゾンが立ち並び、一方では、ファストファッションがどんどんお客様を吸い寄せていくような環境で、プロダクトとして勝ち続けないとビジネスは続かないのが現実です。
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昨年銀座松屋一階で行われたマザーハウス の期間限定イベント
 
 
ゴールは小分けにして考える
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」

マザーハウスの「大きなビジョン」は、やや抽象的です。

途上国に住む人の仕事を生み出して、豊かな国づくりをお手伝いしたいという「社会性」が強い目標。

それでいて、職人たちには厳しいプロ意識を求め、東京をはじめ世界の都市で勝負できる商品をつくる、という「ビジネスの視点」。

私は〝社会性〟と〝ビジネス〟という一見矛盾する二つのゴールを追い求めています。歩いても、歩いても、毎年年末には「1年前よりも、私は夢に近づいているのだろうか……」と考えてしまうんです。

自己採点をするとどうだろう?

今、私たちは5カ国の途上国で生産し、4カ国の先進国で直営店をもっているので、少なくともまったくダメな「ゼロ」点ではないと思います。

そんな私が、ビジョンとして掲げた大きなゴールに向けて進むうえで、心がけていることがあります。

ゴールと現在地の間に、「小分けしたゴール」を準備する。

一つの「小分けしたゴール」を達成したら次を探す。

設定して、達成を目指す。

そうやって少しずつ進んでいく。

もしかしたら、会社や組織においての「中期目標」と近いかもしれません。

マザーハウスの場合、まず一つ目の「小分けしたゴール」は、バングラデシュ国内で、もっとも品質と労働環境がすぐれた工場を目指そうというものでした。

そのため、苦労もしたけれど、自社工場にこだわって運営をしてきました。こういう小分けしたゴールがあると、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という大きくて抽象的なビジョンが具体性を帯びてきて、行動に移しやすくなります(現在、バングラデシュ国内のバッグ産業では、おそらくもっとも高い単価の商品を輸出をしています)。

二番目の「小分けしたゴール」は、日本においてバッグメーカーとして代表格になることでした(現在、ちゃんと上位に食い込んでいます)。

そしてさらに次の「小分けしたゴール」として、ネパール、インドネシア、スリランカと生産地を広げ、アジアのものづくりを変えていく存在になることを掲げました。

こうしたいくつかの小さなゴールたちは少しずつ達成され、最近ではシンガポールのチャンギ空港に隣接した商業施設に直営店をオープンしました。私たちが広げる地図は、確実に大きくなっています。

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インドネシアの工房にて
 
 
大きなビジョンと小さなゴール
ゴールを小刻みにしていく作業は、とても繊細。

間違った時間軸で、ざっくりと刻む小分けの仕方をしてしまうと、達成できずにショックを受けることもあります。

とにかく、今の自分、今のライフスタイル、今の心の余裕、それらをきちんと自己査定しながら、理想をブレークダウンしてみる。そうすることで、自分のビジョンがとてもよく見えるようになりました。

大きなビジョンを掲げるとどれだけがんばっても、自分のがんばりが取るに足らないもののように思えてしまう。

私も小分けする習慣が最初からあったわけではないので、起業してすぐの頃は、毎年同じ時期に会う友人に「まだ何もできていない。何も成長していない」とグチをこぼしていました。

友人は意外に感じたらしいんですね。

「へ?? そんなにがんばって、まだ何も成長していない? ストイックすぎない?」

その言葉を聞いて、私は気づかされました。たしかに、いろいろアクションも努力もしている。何も成長していないわけではないなあ、と。

私には大きなゴールしか見えていなかったのだが、そこにつながる道にはたくさんの交差点もあり、歩道橋もあり、右折左折もある。

「小分けしたゴール」たちを道にきちんと散らばせよう。最初の交差点にはもしかしたらもう立っているかもしれないな。

そう思えると、自分でもエネルギーが湧いてきた。つまり、経験から得た学び。

小分けしたゴールは自分次第でいくつでも配置できる。

最終ゴールまでの道のりが長すぎて息切れしそうなときには、

まずは小分けしたゴールの一つ目に向かおう。

(編集協力:宮本恵理子・竹下隆一郎/ 編集:大竹朝子)

*このエントリーは『ThirdWay 第3の道のつくり方』から一部を抜粋してnote用に編集したものです。

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