「曇りのち晴れ。」
つくっている時に、ふわっと浮かんだこのコンセプト名。
素材から、形、そしてメッセージまでが一つの線でつながった瞬間、
本当に心が晴れたような気分だった。
記憶を辿ると、おそらく一年以上前。
「雨の日でも使えるレザーをどうしても開発したい。」
そういう私にやれやれというような顔をしたマムンさん。
撥水レザーは、原皮から変更しないといけないため、実験も簡単にはできない。
「プラスティックのようなコーティングならできるけれど。」
「だめ、革らしさを限りなく残して。」
強いリクエストのあと、なめし工場があげてくれたのは、
バリバリの「ザ・コーティング」な革だった。
「ほらー、水をはじくよー!」と彼らは無邪気だったが、
「これでいい鞄は作れないんだよね。」
素材と形が密接に関わるからこそ、
しなやかな撥水レザーができあがるまで、全く形には着手しなかった。
それから半年以上経過して、ようやく限界まで自然な風合いの撥水レザーがあがってきた。
「よし。」
そこからは「形や構造」の戦いがはじまった。
素材が生きることをとことん考えている私にとって、
雨に強い革がなりたい形がきっとあるはずだと、思っていた。
「せっかく雨に強いんだもの。
旅行とか、山登りとか、キャンプとか、うんうん、仕事でも、、、
とにかく雨でも外にでかけたくなるようなバッグ・・・」
私は考えた末にマザーハウス史上最も大容量のリュックに挑戦することにした。
「天気が変わりやすい、山の中でも対応できるような大きいリュックを作ろう。
撥水レザーの軽さも生かせると思う。」
そのコンセプトが決まってから、ようやく、型紙を切り始めた。
それからは、なぜか雨が降ると、街でも立ち止まって、
ぼーっと人々の動きを観察したりしていた。
雨が降ると、気分がさがってしまうのは私だけだろうか。
ふとそんなことも考えていた。
実は、開発途中で形が思うように決まらずに、
いつもの通りなんだが、苦しくて逃げ出したい日々が続いていた。
「コンセプトはこれだけ明確なのに、形が生まれない・・・」
貴重な撥水レザーを切り刻んでサンプルを作るほど、
どんどん暗い洞窟にはまっていってしまうようだった。
ふと空を見ると、雲がすごい速さで移動して、雲の切れ間から光がさし、太陽が顔をだした。
「いつか晴れる・・・。今、雨でも、曇っていても、いつか晴れる時がくる・・。」
私は自分自身にそう言い聞かせて、再びサンプルテーブルに向かった。
作りながら、切りながら、縫いながら、決めた。
「テーマは、曇りのち晴れ。撥水レザーの機能面だけじゃなくて、
心からのメッセージ。いつか晴れるから、前を向こう。
そんなメッセージを込めて、作ろう。」
いろんな不安を振り払って、作り上げたどことなく、
雲を連想させるようなふわふわした大きなリュック。
いつも工場のベストを更新するのが新作だと思ってきたけれど、
今季は特にデザイナーである自分自身も、
何か見えなかった太陽に出会えたような気持ちで、
この新作をお届けします。曇りのち晴れ。
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