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山口絵理子の日々思うこと。

道のり。

2018.05.11

「インドネシアのジャワ島中部ムラピ山で11日午前7時半(日本時間同9時半)ごろ、
水蒸気爆発が起きた。

国家防災庁によると、噴煙は山頂から約5500メートルの高さに達した。」

朝、気合いを入れて工房に向かおうとしたらこの知らせに
ギョっとした。

工房について一時間後には、白い火山灰が舞い始めたため、
窓を閉めマスクをした。

舞う白い粉を見ながら
「なんで今なのさ〜」と私は自分の悪運を憎んでいた。

でも幸い、灰が少し落ち着いて、空港は夕方には再開をしたのだが、
喉が痛くて、肌がチクチク一日中していた。

でも、でも、今日は、そんな噴火を更に吹き飛ばすくらい、
大きな一歩があった。

この自社工房に、職人集団が集結したのだ。

集まってくれたのはアグスさん、ムギさん、そして
1時間以上かけてこんな日に山から降りてきてくれた職人ヤントさん。

その偉大なる目的は、それぞれの職人の技術を組み合わせてしか
作れないものを作るからだ。

今年の冬、私は明確に作りたい物が決まっていた。

それを実現すべき越えなければならないハードルはとても高い。

みんなが新しいことに挑戦しなければならなかった。

職人たちは、1度顔合わせをしたことがあるのだが、
実際のモノ作りを通じて技術共有をしたことはないし、
もの静かなアグスさんはヤントさんとしっかり話したこともない。

マザーハウスのジョグジャカルタでの生産方式は、
それぞれの職人の自宅兼工房を私たちが車で巡回し、
それぞれの職人の持ち味をいかして、モデルを作っている。
けれど、ここからは、個人を越えたレベルに引き上げる、
まさに大きな挑戦をしなければ世界には飛び立てないと
思った。

そのために建設した自社工房は素敵だ。

木造で、屋根の上には「MH」と書かれている。
(みんな、自宅で作業をしたいっっていうけれど、
集まってくれるかなあ)
不安な思いもあった自社工房、
ついに事実上、稼働した日が今日だったのだ。

昨日はじめて机が3台配置された。

アグスさんが最初に到着し、一台の机の上に自分の工具を並べていった。

そしてガスパイプを自ら組み立て、作業の準備をする。
その頃、ヤントさんが到着した。

ヤントさんはチームの中で最も無邪気でアグスさんやムギさんという
「街」の人のキャラクターと異なる「村」の人のキャラだ。

ニコニコした笑顔で、強面のアグスさんのところに行って
「おはよう」と手を差し伸べる。

軽い握手をして、2人は、いきなり、机をはさんで
技術的な会話をしはじめたのだ。

「これが昨日作ってみたものだよ。」とヤントさんがいう。
アグスさんが非常に詳しい指導をはじめた。

ヤントさんは、はじめて聞く内容に、
「紙をペンをください!」と言って
全てをメモしはじめた。

そして、それが一段落すると、今度はアグスさんが
「ここがうまくいかないんだ。」と言うと、
ヤントさんがもっている技術を学びはじめた。

2人は、お互いやってきたことを共有しなければ
次の新作は作れないのだ。

ヤントさんはアグスさんが作ったものに対して今度は
「まあまあかな」と強気になっていた(笑)。

2人のサンプル制作は、新しすぎて
一向に進まない。

ヤントさんは真ん中の席に座り、
分からないことがあると前の席のアグスさんに聞く。

アグスさんも、時折後ろを振り返ってヤントさんに聞く。

そうこうしていると、一台のバイクが到着した。

「やれやれ〜」といいながら
入ってきたのは一番の職人、長老ムギさんだった。

ブライダルリングも手がける彼は、誰よりも技術があり
アグスさんは、ムギさんの一番弟子だった。

一方、ヤントさんと仕事をするのははじめてだ。

「おお、アグス、やっているかい!」と声をかけて
彼の慣れない手つきをちょっと笑う。

ヤントさんと少し会話をしてからムギさんが言った。
「宿題をもってきただけだよ今日は。」といって
昨日お願いしていたサンプルを見せてくれた。

「うん、ありがとう。ところでさ、
今日も1つお願いがあるんだ。ここでちょっと作業してよ。」というと
「今?ここで?」

ムギさんは他の誰よりも自分の机で、自分の道具で
モノを仕上げるため、すごーく躊躇していた。

けれど、「1つでいいからさあ」と
私たちがお願いすると、
再び「やれやれ」と言って、工具があるのか、とか
いいながら準備をはじめた。

これで異なる技術をもつ職人3人が、はじめて工房で
作業をはじめた。

私は3つの異なるモデルを走らせ、それぞれの進捗を
見ていた。

全く手つきが違い、やり方もみんな独特だった。

ヤントさんが言った。
「こんな難しいものなんて聞いてないよ!!
今までと違うじゃないか!」と。

アグスさんも、頭を抱えながら黙々と仕事を進めていた。

そしてムギさんは、一番遅くスタートしたにも関わらず、
ひょいっと新しいモデルを一番早く完成させて、
更にヤントさんが困っていたモノをサポートして、
更に足りない素材まで作っていた。

気がつくと日が暮れた。

「明日もお願いしたいんだけれど。」

そういうと、みんなOkだと。

ヤントさんはいった。
「大変だけど、出来るようになりたい。」

無邪気な彼の、純粋な言葉は、
本当に心に響くものがあった。

そしてもっと嬉しかったことは昨日。

アグスさんの自宅でサンプルを続けていた時、
汗をかきながらいつも静かなアグスさんが言った。

「自分がやったことがないものなのに、経験させてくれてありがとう」って。

こちらこそありがとうだと思った。

なぜなら後から知ったのだが彼だけは、
私たちがこの新作を依頼する前に、
自ら進んで、ヤントさんや他の職人ができて、
自分ができていない技術を
学ぼうとしていたのだから。

その証拠に、慣れていくスピードも早かったし、
今の段階ではアグスさんにクリスマスは大きく期待することになる。

このジョグジャカルタという平穏な場所で、
私はかつて、「現状維持」が望まれることなのだろうか、と
悩んだことがあった。

あまりにも平和で、何もしなくてもお土産屋さんから
オーダーは入る。

そんな中に、ひょっこり私たちが現れて、
何かをかき乱すようなことはしていないだろうか、と。

いつも思い出す言葉がある。
学校建設が正しいことだと思っていたワシントンの国際機関時代。
バングラデシュで聞いた言葉。
「学校が出来たら、この場所を立ち退かなきゃいけない。」
「学校に行かせられない親は、村八分にされる。」

私はこの経験から、物事を絶対的に正しいと思うことを
やめた。

絶対的な正しさなんて追い求めても、何も見つからない。

でも私は、そう思ってもまだ、悲観して縮こまるよりも、
人生の時間を前向きに、進めていきたいと思った。

「じゃあ大事なことって何?」

私の答えは、「自分らしい」と思う道を進むことだ。

ジョグジャカルタでも、
「もし、チャンスさえあれば、もっと頑張りたいって思う人もいて、
そして、実際に、もっとできるんじゃないか」という
自分のスタンスを信じて、デザインの提供と同時に可能性を開花する機会の提供が
できたらと思ってきた。

フィリグリーという線細工の独特の繊細さに強く惹かれ、
これまで銀だったものを金に変えて、
マザーハウスジュエリーはスタートをした。

売れたもの、売れなかったもの、
増えるお客さんの声にあわせて、
ブライダルリングもはじまった。

2人だった職人さんは今は5人になった。
ムギさんを日本に招待しお客様の前で実演をした。

様々な出来事があった中で、
今日は、正しいかどうか分からないけど自分らしい道のりに
「ああ、よかったのかも。」って思えた一日だった。

記念すべき自社工房スタートの日。

今は成長痛があっても
きっときっと、新しい扉をあけてくれるものだと信じている。

デザイナーの要求に応える職人。
職人の技術を活かすデザイン。

その掛け算が、お客さんの喜びになれるように。

2018年迎えるクリスマス、
このジョグジャカルタに新しい種が植えられ、そして小さくてもいいから
芽がでますように。

teaching
左がアグスさん、右がヤントさん。

teaching2

3人の机。
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