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モノづくりの現場からお届けする生産者便り

インド・ネパールの担当として、1年の半分以上を現地で過ごす田口ちひろ。モノづくりを職人たちのすぐそばで見つめているからこそ見える途上国の姿や、途上国駐在における心得・苦難など、リアルな声をお届けします。

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第68回 モノづくりの現場からお届けする生産者便り

また会える日まで

2019.08.18

こんにちは、田口です。

すでにホームページでもお伝えしていますが、
ファブリックマザーハウスは、
この度、e.というブランドとして生まれ変わり、次なるステップに挑戦します。

この新しい舞台は、デザイナー山口の覚悟がなければ実現しなかったし、
お洋服という、これまでのバッグ、ジュエリーとは異なるアイテムを、
お客様に届けるために試行錯誤してきた、
事務所・お店含めた販売チームのみんなの頑張りがなければ、
絶対に次のステップにはいけませんでした。

2017年の夏に生まれた「はなれ」から、
去年のファブリックマザーハウス、そして今年「e.」と、
変化し続けてきたこの期間は、かけがえのない経験だったし、
このスピードでここまで来るなかで、
正直、たくさんの痛みを伴うときもあったけれど、そのとき必要だった判断を、
私たちだからこそできたと思っているし、
ここから、もっと、大きな夢を描きながら、
一歩ずつ、少しずつでも、前に進んでいきたいと思っています。

そう、本当に、今これから、新しい幕が上がろうとしている。

なんとしてでも、e.を、世界にはばたくブランドにしたい。

その強い思いとともに、
私の中には、ずっと、やるせない気持ちがあって、
ブランドが立ち上がる直前になってしまったけれど、
今日は、そのことについて、お伝えをさせてください。

インドのコルカタ工房の立ち上げは、
本当の0から1の立ち上がりは代表の山口が、
その後を引き継ぐ形で、私が工房のマネジメントを行っています。
(そして、その少し前から今も、パタンナー後藤が、現場に張り付いていてくれているのです)

それが、ちょうど去年の春ごろからで、
カディシャツを販売し始めたのと同時に、生産側も、
(今だったらまだ引き返せるぞ)というところから、
(もう後には引けないぞ)というフェーズに変わるところだった。

同じくして、工房の体制をより強固なものにするために、
生産リーダーを、そのとき新しく募集しました。

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(当時の山口のインスタより)
このときに選ばれて、仲間に加わったのが、
スシルです(上の写真、真ん中でチェックのシャツを着ているのがスシルです)。

彼が選ばれた理由は、
マザーハウスの哲学への理解と共感が高く、
面接で話していて、熱意が伝わってきたことが一番大きかった。

首都デリーの大規模なアパレル工場から、
10人規模の小さな工房によく転職してきたな、と思ったけれど、
「日本の仕組みやカイゼンをすごく尊敬していて、日本の企業で働いてみたかった」
「カスタマーと直接つながれる会社で働いてみたかった」と、
その後、話してくれた。

入社してからの彼は、
生産スケジュールと縫製メンバーのマネジメント、生地の管理、検品と、
まだ立ち上げ間もなく仕組みもやり方も確立していない、
ヨチヨチ歩きな工房で、いかに生産をスムーズに行えるか、試行錯誤していった。

なかなか言うことを聞かないスタッフが、
上長のスシルを飛び越えて、
マネージャーのスヤシに相談することがあったとき、
現場とマネジメントの板挟みで苦しみ、
何度も何度も、「田口さん、ちょっと良いかな」と呼ばれて、
一緒に話し合いをした。

出荷の生産が終わらず、検品ももうやばい、というときには、
スシルは工房に泊まり込んで、早朝出勤するスタッフには朝ごはんをおごっていた。

去年末には結婚して、
奥さんのことをはにかみながら話すスシルは、本当にうれしそうだった。

優しくて(自身に対しても甘くないか?と指摘することも多々あったけれど)、
スタッフ想いで、いつも生産スケジュールのことを考えていたスシル。

そんな彼との別れが、本当に突然、やってきてしまった。

5月21日、
帰宅した後に、深夜に地元で友達と出かけた彼は、
バイクで事故にあい、帰らぬ人となった。

大切な仲間を失ったショックと、
それでも生産を止めずに工房を前に進まなくては、という焦り、
あまりにも事故が多いインドの交通事情、そこからのインド社会への怒り、
日に何度も訪れる悲しさとやるせなさは、
私のこれまでの人生でも、感じたことのないものだった。

スシルのお父さんと弟さんが、
事故から二週間ほどして、工房を訪れてくれた際に、
弟さんが、「兄は自分に、この工房に転職してこいよ、って言っていたんです」と教えてくれた。

自分の家族を働かせたい、って思える工房は、
きっと本人にも誇れる工房であったからだと思うし、
これからも、スタッフが「自分の家族を働かせたい」って思える工房であろうと、
そして、何が起きるかわからないインド社会の中で、
この会社がスタッフのみんなにとって、最良のセーフティーネットであるべきだと、
そのとき強く思った。

経験者が少なく、手探り状態の中で、
立ち上げの一年間を一緒に過ごした、
現場のリーダーとして最前線に立っていたスシルは、
間違いなく、私たちの大切な戦友だ。

だから余計に、
来週から始まる、e.の新しいスタートを、
一緒にお祝いできないこと、
これからもっと大きな夢を一緒に描けないことが、
本当に、悲しくて、くやしい。

スシル、あなたへの感謝は言い表せないし、
日本のお店、実際に見てほしかったし、お客様に会ってほしかった。
何度も訪れた困難を、諦めずに一緒に進んでくれて、本当にありがとう。

いつかまた会えたときに、
「あの後、こんなに工房は大きくなったよ、
こんなに素敵な商品を、世界中のお客様にお届けできるようになったよ」って、
胸を張って伝えられるように、私たちは、これからも決してあきらめないで、
前に進みます。

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重い内容になってしまうこの件を、
このマガジンに書くのは適切なのか、ずっと迷っていたけれど、
どう考えても、
彼がいたからこそ、工房は前に進むことが出来たし、
これから工房が大きくなって、スシルのことを知らないスタッフが増えても、
彼の存在と、その功績を、決して忘れずにいたい、と思って、
ここに記すことにしました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

※工房のみんなは今は前を向いて、日々生産に取り組んでいます!
来週からお披露目になる新作、どうか楽しみにしていてください。

田口ちひろ

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