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モノづくりの現場からお届けする生産者便り

インド・ネパールの担当として、1年の半分以上を現地で過ごす田口ちひろ。モノづくりを職人たちのすぐそばで見つめているからこそ見える途上国の姿や、途上国駐在における心得・苦難など、リアルな声をお届けします。

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第7回 モノづくりの現場からお届けする生産者便り

燃料危機のネパール①

2015.11.05

「震災のときよりも、いまのほうが、ずっと、大変な状況なんだ」

約1.5か月ぶりにネパールに到着し、
現地パートナーのキスマットに会って、まず言われた言葉です。

9月20日に新憲法がやっとできて、
これからネパールは新しいステップを踏んで、
復興も進んでいくはず! と、あの時多くの人が思っていたはずなのに、
いま、全く逆の方向に、事態は進んでいるのが、
いまのネパールの実情です。

新憲法が公布されたのとほぼ同じくして、
インド国境からの物流が一切ストップし、
海のない内陸国であるネパールは、
陸路からの輸入はほぼすべてインド経由なので、
燃料等が著しく供給されなくなりました。

すでに一か月以上、この状況が続いており、
日本で想像していたよりも、正直かなり異常な光景を目にしています。

まず、ガソリンがないため、車やバイクでの移動ができなくなり、
カトマンズ市内の道路はガラガラな状態。

救急車も動かせず、
病院は酸素ボンベも不足しているそう。

スクールバスも走ることができないため、
多くの学校が休校しています。
(震災時も2か月以上休校し、また、休校です。。)

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ガソリンスタンドに並ぶ、車とバイクの列。
いたるところにこういった行列があり、1km以上つながっています。
いつ配給されるかわからず、一週間以上並び続いていることもあるそうです。

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調理ガスも不足しており、また別の列が。
配給されるのは、シリンダーの半分までだそう。

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ガスが手に入らないため、多くの家庭やレストランは、薪で火をおこして、料理しています。

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このレストランも、薪を使っていました。

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「Available item」のメニュー表。
このレストランもガスがないために、メニューのすべてを調理できないので、
限られたメニューのなかから、注文を受けていました。

今回の燃料危機は、
新憲法に対して、インド国境に近いタライ地域で暴動が起き、
その治安悪化を理由に、インド側から国境が封鎖されていることに起因しています。

その背景には、
社会的にインドとのつながりが深い「マデシ」の人々の住む地域が、
新憲法で決められた新しい州では区切られてしまっているために、
マデシの議席の確保が困難になり、これによって、
インドのネパールへの影響力が弱まることを懸念し、経済封鎖というかたちで、
ネパールの憲法改正へ圧力をかけている、
というのが、ネパール現地の多くの人の見解です。

そしてそこに関わってくるのが、中国の存在。

今回の燃料危機を受けて、
ネパール政府はもう一つの隣接国である中国へ、
燃料輸入を打診し、中国側もこれを承諾、
ちょうどおととい、中国から初めての燃料タンクが到着したニュースがありました。

ただ、中国とネパールのあいだには、
ヒマラヤ山脈があり、その道は十分に整っておらず、
ヒマラヤを超えて十分な量の燃料を運んでくることは、現状不可能です。

今後、道路を整備してネパール中国間の距離は一気に縮まる可能性は高く、
(ヒマラヤを通って電車を走らせる計画もあります)
いままでネパール国内の燃料を独占していたインドが、
それに対してどのような対応を見せるのか、
二か国の方針によって、ネパールの状況は大きく左右されそうです。

私自身は、
東京の通勤ラッシュに慣れているからでしょうか、
運行数の少ないバスに乗ってぎゅうぎゅうに押されながらも、市内を移動できており、
(もしくは、タクシーで移動するか。。通常の3倍の金額に上昇しているので、極力避けています)
社宅には電気で加熱できる設備があるので、
問題なく自炊をしながら生活できていますが、
これから停電時間が増えると、それも難しくなるので、
日本から持ってきた缶詰を食べるときがやってきそうです。

しかし、なんといっても個人的に驚いているのは、
みんな、困っているし大変な思いを一か月以上もしているはずなのに、
悲壮感がなく、なんだかんだ文句言いながらも、
淡々と日常生活が送れてしまっている、ということ。

調理ガスがないならば、
薪を用意して料理しよう、
バスに乗れないなら歩こう、
そういった切り替えが、みんな自然に、
私が想像するほどストレスなく、できるようなのです。

カトマンズのいたるところで、
燃料のために恐ろしく長い列ができていても、
燃料をめぐる暴動や事件は起きていません。

一緒に働いているサリナ、キスマット、
工場のみんな、道端で会う人々、
知り合い同士で分け合ったり協力して、
みんながたくましく、彼らなりに日常を送っています。

もしかしたら、この国の人たちは、
そもそもモノやお金に縛られていないというか、
ものに執着しない、なかったらそれでいい、
という原理原則をもっているのではないか。

たぶん、いま足りない燃料よりも、
彼らにとってずーーっと大事なのは、
家族とのつながりや、神様とのつながり(すなわち、お祭り)。

もちろん何が大事なのかという価値観は、
安易にひとくくりできず、人それぞれなのですが、
根本に、上記のような考えが、この国にはあるのではないかなと感じています。

しかし。
そうはいっても、
あらゆる産業がこの燃料危機で大打撃を受けており、
経済的な影響は、おそらく震災以上のもの。

引き続き、来週も現地の状況をお伝えします。

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